【参考書レビュー】太田貴之のゼロから始める小論文
こんにちは!
オンライン小論文対策「ことのは塾」の、参考書レビューコーナーです。
小論文という科目一つをとってしても、書店には実にたくさんの参考書が並んでいますよね。初めの一冊をどれにしようか。次の一冊をどれにしようか、迷う人も多いはず。
今日は、最近の小論文対策参考書の中でも初心者に特にオススメな『太田貴之のゼロから始める論文』をご紹介いたします!
目 次
10秒レビュー『太田貴之のゼロから始める小論文』
文体やテイストは終始読みやすいタッチで、すぐに引き込まれるはずです。
また、実際の大学入試問題を出典とともに豊富に用いており、イメージが湧きやすい構成になっています。
「こういう問題が出るから、こんなふうな力を鍛えておかないといけないね」と、説得力を持って言い聞かせてくれます。
本書には具体的にどのような特色があるか、見ていきましょう。
基本情報『太田貴之のゼロから始める小論文』
本書の正式な題名は『大学入試対策 初歩の初歩 太田貴之のゼロから始める小論文』です。
大学入試対策 初歩の初歩 太田貴之のゼロから始める小論文
著 者:太田貴之
出版社:KADOKAWA
初 版:2019年8月24日
分 量:B6判で224ページ
著者の太田貴之さんは東京大学で博士号を収められたアカデミックな方で、現在は代々木ゼミナールにて講師をしている他、大学の非常勤講師もなされています。
小論文指導については、授業や講義以外にも、入試問題の解答速報を作成されたり、予想問題や模試の作問を担当されたりする他、教員を対象としたセミナーで登壇されたりなど、広いフィールドで活躍されているお方です。
このような経歴を浮かべると、お堅そうな印象を持ちますが、本書から感じさせる著者の雰囲気は「親しみやすそうな人」「話しやすそうな人」「ユーモアあふれる人」です。
きっと、読んだあなたもそう思うことでしょう。
とにかく読みやすい一冊です。
『太田貴之のゼロから始める小論文』の良い点
読みやすいテイスト・章構成
もうすでに何度も強調していますが、本書の最大の良さはその読みやすさにあります。
デフォルメされた講師のアイコンがやさしく、ときに面白おかしく話しかけてきます。
読者を笑わせにくる頻度も高く、楽しんで読み進めることができます。
中身についても、小論文を料理に見立てた分かりやすい導入部に始まり、豊富な例示や比喩を用いて、本を読むのが苦手な人にとっても入ってきやすい書かれ方をしています。
また、分量としても読みやすい量で組まれています。
筆者の想定では小分けにした第1回から第10回まで、1日1回分ずつ読んでいけば10日間で小論文の基礎をマスターとあります。
もちろん一気に読み進めても良いですし、それでも1日で読み切れる量です。
章構成としましては、まずは根幹となる小論文という科目の捉え方やベースとなる姿勢について述べられた第1回第2回から始まります。
次いで、第5回までに渡って、「文を書く」「文をつなげる」「語を見直す」と、「書く」ことに重点を置いた内容がまとめられています。
その後、小論文で重要視される論理と対話、構成についての回が来ます。
最後に、課題文の読み方や統計資料の処理に関してもしっかり触れて、小論文の書き方のまとめで締められています。
中身が詰まった1冊です。
これらの点から、読みやすさについては満点の☆5だと感じました。
随所に挙げられる問題例
実際の入試問題の例を挙げながら説明していくのも、この小論文の良いところです。
オーソドックスでありがちな設定の問題から、当時話題になった早稲田大学スポーツ科学部のジャンケン問題まで、適切なタイミングで出題例を提示してもらえます。
読者は、具体的にどんな問題が入試で問われるのか、早い段階からイメージがつきます。
そして、紹介された問題設定に対して、出題意図の汲み取り方や、よくあるミス、好ましい思考過程や解答例などを挙げていきます。
実際にそこで原稿用紙を広げなくても、しっかり問題を追体験できているように進んでいきます。「読んでいるだけではあるが、実はたくさん問題経験を積めている」という良い入門の過程を歩めます。(もちろん、実際に書くというプロセスも上達には欠かせませんよ)
ありがちなミスを具体的に説明
よくあるミスに触れられている、というのは大概の小論文対策本みなそうですが、この『太田貴之のゼロから始める小論文』はその説明が具体的で大変分かりやすいです。
間違いを含んだ文が登場し、どの部分にミスがあるかを考えながら読むという姿勢を呼びかけています。
それぞれ、適切な直し方をときに数通り紹介していく他、そのようなミスをなくすための具体的な方策についても触れられています。
ミスの規模についても、文レベルのそれなのか、語レベルのそれなのか、階層別にランキング形式で載せられています。
先程の問題例のところと合わせて、実例の多さは☆4としました。類書と比較してもかなり充実しています。
カジュアルな説明、そしてそれをしっかり補う補足
1点目でも紹介しましたように、この本の本文はとにかく読みやすいです。
肩の力を抜いて読めるような工夫が随所になされています。
その1つの工夫として、情報を盛り込みすぎない、ということを考えられたのだと思われます。
本文の中に何でもかんでも情報を詰め込んで、よく分からない・読みづらくなるということを避けている配慮が見られます。
そうすると、情報量の面で遅れをとってしまうわけですが、それをフォローするような形で、ほぼ毎ページの本文下に補足がついています。
ここに書かれている内容が、本当に良いんですよね。
痒いところにしっかり手が届いていたり、本文を読んでいてちょうど気になっていた部分についてコメントされていたり、はたまた、少し余談にはなるけれども面白い話であったり。
これはなかなか読んでいて楽しいです。
実際、本書の分かり易さにも大きく寄与していると思います。これらの点も総合的に考えて、「分かり易さ」の項目については☆4といたしました。
課題文・統計資料の読み方について詳しく触れられている
本書の後半には、応用的な内容として、課題文の読み方・統計資料の捌き方について触れられています。これがかなり実戦的で良いです。
例えば、課題文型の出題。
しっかり課題文を読み進めていった結果、「その通りだ」と課題文の内容に全面的に賛成し、そこから考えが進まない、という経験はないでしょうか?
「あー、確かにありますね」となる方も多いでしょうし、まだ実際にそのような問題に取り組んだことのない方でも、そういったことが起こりそうだということは想像がつくでしょう。
この状況に対し、どのように考えを推し進めていったらよいか、そのまま賛成するのであればどういったテイストで書けばよいか、反論を書くにはどうすればよいか、など具体的なアドバイスが解答例とともに載せられています。
統計資料についても、どこに目をつけたらよいか分からない、という人に対して、適切な答えを返しています。
また、先ほど紹介した欄外補足の部分で「棒グラフの注意ポイント」「円グラフの注意ポイント」など、それぞれまとめられており、統計資料のどこに着眼点があるか気づけるようにしてくれます。
このあたりの応用面にもかなり踏み込んで書かれていること、及び、先ほど紹介しましたミスについてのまとめの部分から、実戦性の部分で星4としました。
『太田貴之のゼロから始める小論文』の注意すべき点
このように良いことづくめの『太田貴之のゼロから始める小論文』ですが、注意すべき点もあります。1冊の本に盛り込める情報にも限度がありますから、足りない部分は他で補っていきたいですね。
まず、小論文の1冊目としてこの本が悪くないというのは言うまでもありません。
小論文という科目の特性やその求めるものから話が始まり、原稿用紙の使い方にも触れ、さまざまな問題例・よくあるミスに触れています。
しかし、小論文対策にはもう一つ重要な要素があります。
それは、いわゆる「ネタ」集めです。
小論文でよく話題となる事柄について、その背景知識を知っておくことはとても重要です。
小論文対策の入門書で、ある程度その入り口に触れられているものも多いですが、本書に関してはそこは他に譲るという形でしょうか。ほとんど触れられていません。
確かに、詳しく書いていくと分量も大変なものになりますし、1冊の本の方向性として難しい部分も出てきます。
参考書によっては、入門書であってもしっかり各分野の背景知識に足を踏み込んでナビゲートし、より詳細については参考図書を挙げておく、というようなものもあります。
そのあたりもう一踏ん張りあってもよかったと思いますが、ネタ本に始まる他の書籍で十分カバーできるので大丈夫です。
もう一点挙げるとするのであれば、これは人によって感想様々でしょうが、読みやすさのための冗談が一貫して続いていくので、そこが気になる人もいるのではないかなとも感じました。
フレンドリーな印象で、最初はそれでどんどん引き込まれていったのですが、後半にいくにつれて、ちょっとしんどいなと思うところもありました。
そこはそのまま楽しんで読むか、割り切って流して読んでいくか等の工夫が必要でしょう。
ともあれ、内容に関しては終始ブレることなく最後の最後まで有意義なものとなっていますので、ぜひ最初の1冊に良いのではないでしょうか。
「太田貴之のゼロから始める小論文」まとめ
本書をまとめると次のようになります。
読みやすさのための冗談部分については、人によって合う合わないあるかもしれませんが、とにかく入り込みやすい本ではあります。
出題例・よくあるミス例から学びとれることも多いですし、課題文の読み取りについてもしっかりレクチャーされています。
参考書学習から対策をスタートしようと考えている人には、最初の1冊としてぜひお勧めします。