【参考書レビュー】大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。
こんにちは!
オンライン小論文対策「ことのは塾」の、参考書レビューコーナーです。
世の中には、小論文1つをとってしても、書店やAmazonにはたくさん本が並んでいますよね。
どれが自分にあった1冊なのか分からない……
「ことのは塾」の参考書レビューコーナーは、そんな迷える小論文受験生たちの強い味方です!
本記事では、『大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。』をご紹介いたします!
目 次
10秒レビュー!「大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。」
今回ご紹介する 『大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。』 は、「これぞ、小論文の入門参考書」という内容になっています。
出版社は学研プラスで「ひとつひとつわかりやすく。」シリーズの一冊となっています。
このシリーズには小論文以外にも、学年別の英文法や数学など幅広い分野で入門書が準備されています。
参考書自体が薄く、読み終えるだけであれば1, 2時間程度で済みます。
内容としては、タイトルの通り、小論文に関して基礎から一つずつ学ぶことができます。
本記事では、そんな 『大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。』 の魅力や注意点について紹介します。
基本情報「大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。」
大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。
著 者:伊藤博貴
出版社:学研プラス
初 版:2016年8月2日
分 量:B5判で124ページ
『大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。』 は、駿台やZ会で指導にあたってきた伊藤博貴氏によって書かれた参考書です。
このシリーズ「ひとつひとつわかりやすく。」はどの参考書もわかりやすく、また分量も少ないために手に取りやすい参考書といえます。
『大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。』 も例外ではなく、ゼロベースから小論文対策をナビゲートしてくれます。
以下、本書の良いところを紹介していきます。
『大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。』の良いところ
本書の良さとして一番最初に挙がるのは、コンパクトながら密度濃くまとまっているという点でしょう。
本書は、1テーマ1見開き(2ページ)の項目が34テーマ並び、その後にまとめとして「入試レベルにチャレンジ」という実戦演習が5本収録されているという構成です。
本自体は100ページと少しといったところで大変薄いですが、載せられている情報量やその質、例などは、本書より分厚い下手な類書を大きく上回るほど豊富です。
「意味の明確な文を書く」というコンセプトに第1章が始まり、その後、答案作成までの思考過程や実際の答案構成に至るまでが第2章・第3章にまとめられています。
第4章から第6章までは、「具体的に何を論じるか」について、まとめられています。
また、この第1章から第6章までの本編の前に「小論文学習の前に」という項目があるのですが、これが大変優れています。
小論文と感想文の違いに始まり、その後、小論文学習のポイントを3つに絞って紹介しています。
その3つの面で、具体的にどのようなことを学んでいくか、注意すべき点は何かなどとオリエンテーションしてくれています。
この第0章にあたる部分のおかげで、その後の学習がとても見通しよく進むようになっていきます。
また、その後の第1章から第6章までの34項目すべての内容に、「基本練習」という簡易的なアウトプットコーナーがあります。
大抵の小論文参考書は、ひたすら筆者の考えや紹介できるテクニックが載せられていて、ずっと読む側に立たされます。
しかし、本書ではリズムよくこのアウトプットコーナーがやってくるので、飽きることなく、実践的に読み進めていくことができます。
解答欄や原稿用紙のマス目も載せられているので、読み進めていくうちに、自分の思考過程や書き溜めたものがこの薄い本の中にストレージ(蓄積)されていきます。
読み終える頃には、いろんな意味で「あつい」参考書になっているでしょう。
続いて、本書の各章で述べられていることを、もう少し詳しく見ていきます。
まずは「語」や「文」を整える第1章
第1章では、一つの文を不備なく書くための注意点を指摘しています。
主語と述語は対応しているか、修飾語は意図する単語に係っているか、などです。
小論文を構成するのは段落であり、さらに細かく区切ると「文」です。一文が明確に記されていないと良い小論文はできないので、欠かすことのできない要素がちりばめられています。
見開きの左側には説明と実例が載せられ、左側には、誤りを含む文を正しくするにはどうしたらよいかというエクササイズが載せられています。
また、「語」レベルの話については、使ってよい語と使ってはいけない語の比較や、数字・略称などのイレギュラー語対応など、かなり細かいところまでまとめられています。
細かくなっても、読むのに嫌な気がしないのもこの本の良さです。1ページに情報を載せすぎず、見やすいレイアウトで情報が入ってきやすくなっているからです。
原稿用紙の使い方としては、縦書き、横書き、数字の入れ方、句読点をどこに入れていいのか、など基礎ルールが書かれています。
いま、挙げたルールを知らない生徒は、どの参考書よりも先にこの参考書で覚えてしまいましょう。
実際に答案を練るときの流れをまとめた第2章
第2章では、実際に問題を見てから、小論文の内容・構成を決定するまでに至るプロセスを言語化してくれています。
文章(課題文)が与えられたときはどうすればいいか、
図表(資料)があるときはどうすればいいか、
など、代表的な課題に対してのゴールまでの道筋(方向性)のつけ方が分かります。
その後、「テーマの絞り込み」や、「論旨の方向性を決定」という、ないがしろにされがちな、けれども答案に着手するまでに確実に必要なステップについて、できるだけ具体的に述べられています。
ここは、他の様々な参考書でもあまり詳しく書かれていない点です。
この点についても、基本練習の中で実際にそれを練習していけるので、「書ける人の思考回路」をしっかり追体験していくことができます。
第2章は本書の中でも、目立って学びの多い内容となっています。
小論文のマクロな構成を伝授してくれる第3章
第3章では、第2章の考え方で得たアイディアをもとに答案をどう構成していったらよいかについて述べています。
小論文の構成について、本書では「序論⇨本論⇨結論」のパターンを推奨しています。
それぞれのパーツの目的から始まり、どのように書き出して、どのような内容を盛り込み、そのように締めくくればよいかについて、具体的な例とともに載せられています。
また、やってしまいがちなNG例も豊富に示されおり、自分が書くときにそのようなミスをしないと意識できるようになっています。
分量が必要な本論部分については、根拠と主張の対応や、根拠の充実のさせ方にまで踏み込んで書かれており、内容に困って書くことが浮かばないときの脱出方法についても載せられています。
この章もまた、細かな基本練習が載せられており、良い小論文を書きあげるための力の要素を1つ1つ伸ばしていくことができます。
体験談を使った答案構成についてまとめた第4章
第4章から第6章については、全体構成について、よくあるパターンを例に実際に答案を構築していく訓練をします。
まずこの第4章では、体験談をベースに論じる時の定番パターンを載せています。
小論文中で体験談を有意義に用いることは、他の参考書でもよく強調されており、本書でもよく使える武器として重要視しています。
一方で本書ではさらに、 体験談だけに偏らないように注意を促しています。
体験したことで何を感じて、何を分析して、どのように考察を述べるか、というところまでミクロにレクチャーしており、体験談の分量のバランスを知るにはとても参考になるでしょう。
社会問題をテーマにした答案構成について述べた第5章
第5章では、「社会問題」をテーマに小論文を書くときの構成の仕方について述べられています。
社会問題を論じるにあたっては、序論でどんなことをまず述べ、その後それを本論でどう展開し、最後にどのようにまとめればよいか。
その流れと思考過程についてまとめられています。
本書も第5章まで進んできて、小論文を書くことに少し慣れてきた頃に起こりがちなミスについても、ここで触れられています。
また、これは本書の中では触れられていませんが、「社会問題」とは実に広い意味の言葉です。
なんであれ問題があって、それについて論述する問題であれば、皆この形式の類型とも言えるでしょう。
その多様な問題すべてにこの章で触れたエッセンスが使えます。
大変実用的な章と言えるでしょう。
賛成・反対をもとに述べる方法をまとめた第6章
第6章では、ある主張に対して「賛成」「反対」の立場をとって論理展開していく答案作成の方法論について述べられています。
単純に「賛成ですか、反対ですか」と聞かれている設問に対しては、賛否を論じる展開で当然決まりです。
しかし、そうでない問題設定であっても、賛否のどちらかに立って述べることで答案構成がしやすい場合があるとこの章では述べています。
そして、賛成と反対のそれぞれどちらの立場をとるかによって、その後の展開も異なるとして、手ほどきしてくれています。
「全面的な賛成、あるいは反対だと良い小論文になりにくいので、どうすればよいか?」
「それぞれの立場から答案を作っていく際の発想法は?」
などというようなことが分かりやすく述べられています。
第6章が終わった後、本書のまとめとして「入試レベルにチャレンジ」というコーナーがあります。
ここでは本格的な入試問題が5題載せられています。
本書で学んだことを生かしてしっかり答案構成していきたいですね。
『大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。』の注意すべき点
これまで述べたように、良い点がたくさんある本書ですが、一部気になる点もあります。
参考書の薄さ、わかりやすさ、1日で終わる分量、などは初学者にとっていいですが、小論文の中身を磨いてより高得点を取りたいという生徒には物足りないでしょう。
小論文対策を始めた直後、もしくは準備運動という役割で使用するのが良いです。
本書にも書かれていますが初心者~中級者向けの参考書です。
分量が少ない分、一気に読み込んで、よりアドバンスな対策に進みたいですね。
また、難しいところですが、本書では小論文執筆に必要な背景知識やその習得法についてはほとんど触れられていません。
小論文で取り上げられやすいテーマというのが、各分野で決まっていて、ある程度背景知識を持っているから本論を展開しやすい、ということがよくあります。
薄い体裁で完結しようと思うと、どうしても犠牲にせざるを得なかった部分であるとは感じます。
賢明に対策を進めていくのであれば、その部分はいわゆる「ネタ本」の類や、本ブログのキーワードまとめ記事の中でしっかり学んでいくようにしましょう。
内容上、気になる点がもう一つあります。
本書の中で練習問題などで用いられる素材についても、基本的には易しいテーマで、急な壁にぶち当たらないよう工夫されています。
ただ、ときに模範解答がハイレベルすぎて、少しびっくりしてしまう・ちょっと実用からはかけ離れてしまうこともあります。
模範解答を1例だけ載せるということで、しっかりしたものを紹介せざるを得なかった結果、他のものより急に水準が上がる解答となっているようです。
そこだけ急にそのレベルを目指せ、と言われても難しいので、ときに割り切って模範解答を眺めることも必要になってきます。
自分の等身大の解答から着実にレベルアップしていくためには、模範解答を見ることも大事ですが、今の自分のレベルでかいた答案について、適切な添削を受けながら進んでいくのが確実です。
これも、この本だけで片付けないように、というスタンスで超えていくことができます。
まとめ
『大学入試 小論文をひとつひとつわかりやすく。』についてまとめると次のようになります。
どの項目にもアウトプットのコーナーが設けられていて、学んだことをすぐに練習することができます。
また、本題に入る前に4ページで構成される「小論文学習の前に」というページを読んでおくことで、より見通しを持って勉強していくことができます。
薄い体裁の本ながら内容は濃く、実際にアイディアを出して原稿用紙にどう反映していくかという思考過程をうまく言語化し説明しています。
数ある小論文参考書の中でも、相当良い部類に入ってくる本だと感じます。
一方で、背景知識やその習得法について触れられていないほか、ときに周りの問題から浮いたハイレベルな模範解答が出てきて使いづらいという弱点もあります。
背景知識を集めるのには他の手段を用いること、模範解答に頼りすぎず、自分自身が書いた答案の添削を受けてレベルアップすることで補っていくべきでしょう。