【参考書レビュー】採点者の心をつかむ 合格する小論文
こんにちは!
オンライン小論文対策「ことのは塾」の、参考書レビューコーナーです。
今日は、小論文参考書で、河合塾の中塚光之介講師のシリーズ本『採点者の心をつかむ 合格する小論文』をご紹介いたします!
目 次
10秒レビュー!「採点者の心をつかむ 合格する小論文」
今回ご紹介する『採点者の心をつかむ 合格する小論文』は、とっつきやすく分かりやすい対策本となっています。
著者の主張が明確であり、軸が終始ぶれないので説得力もあります。
参考書の厚さがある割に、集中して読めば1~2時間程度でも読めるのも良いですね。
「何を書いていいか分からず、時間だけが過ぎていく…」
「書いては消してを繰り返して、結局何も進まない…」
そんな生徒たちも多いと思いますが、この参考書には何を書くべきかが明確に書かれています。
書く内容に悩んでしまって、解答時間を使い込んでしまう人にとっては、特に読むべき一冊と言えるでしょう。
本記事では、そんな 『採点者の心をつかむ 合格する小論文』 の魅力や注意点について紹介します。
基本情報「採点者の心をつかむ 合格する小論文」
採点者の心をつかむ 合格する小論文
著 者:中塚光之介
出版社:かんき出版
初 版:2017年10月10日
分 量:B5判で159ページ
『採点者の心をつかむ 合格する小論文』 は、河合塾の中塚講師によって生み出された「採点者の心をつかむ~」シリーズの一作です。(シリーズは他にも「志望理由書」「看護・医療系」があります)
シリーズ化していることからも、人気の高さがうかがえます。
本記事では、この 『採点者の心をつかむ 合格する小論文』 が人気な理由、どういった点が受験生たちの心をつかんでいるのかを見ていきます。
『採点者の心をつかむ 合格する小論文』の内容・良い点について
この本の読みやすさ・内容の入ってきやすさの一番大きな理由は、筆者の一貫した主張・姿勢であるといえます。
筆者は、小論文の中で「具体性」と「自らの体験談を書くこと」に重きを置いています。
本書は全5章で構成されています。
小論文のジョーシキを疑ってみる第1章
第1章では、小論文の「ジョーシキ」を疑ってみようという題名のもと、小論文に向かう姿勢を再度整えるところから始まっています。
これまで「こう書かないとだめだ」と教わってきたり、「なんとなくそれはこういうものだ」と固定観念に囚われていた方も多いのではないでしょうか。
筆者は、そうした「小論文のジョーシキにうんざり」と断言しています。
また、この第1章では、実際の小論文解答例を挙げています。
あわせてその評価基準を示しており、具体的にどういった項目でどう評価されるか、イメージがつきやすいものとなっています。
ここでは「課題文をふまえているか」「自分なりに考察できているか」の項目で〇△×の評価付けをして、良い小論文・悪い小論文を実感するところで締められています。
この採点基準を見る前に、例題に対する小論文を書いてみるのも良いでしょう。さて、みなさんはどのような評価になるでしょうか。
合格答案に必要な内容をまとめた第2章
第2章では、合格する小論文に必要なことをまとめています。
重要視する「具体性」と「自らの体験談」の説得力がここで増していきます。
小論文を書くうえで大切なのは課題文の「読解力」で、読解法には3パターンあるとしています。その中で最も重要なのが「自分の体験にあてはめる読み方」と主張しています。
また「小論文は問題意識を共有すること」とも強調しており、様々な例えを用いて説明しています。よくよく「対話が重要だ」と言われますが、その「対話」とはいかなるものか、この本ではその答えを適切に示しています。
実際の答案検討で学ぶ第3章
第3章では、第2章で学んだことを、実際の問題の中でどのように使っていくかを実演しています。
第2章で学んだ3つの読解法を用いて課題文を読むと、それぞれどのようなことが読み取れていくのか。
その後、どういった思考過程でアウトプットして、結果、A判定の答案となるのか。
その過程が分かりやすく書かれています。
また、同じ問題について、実際の受験生の答案も載せられています。
こちらは模範解答(筆者の書いたA判定解答)とは異なり、ややマイナスの評価を受けるわけですが、その差がどこにあるかを考察することによって、より良い小論文を書くためのヒントを得ることができます。
第2章で学んだことを実際にどう活かしていくかを見ることができる、分かりやすい章構成になっています。
実践的な勉強法に富む第4章
第4章は、合格する小論文答案を書くための勉強法についてまとめられています。
例えば、自身が書いた答案をどうブラッシュアップしていったらよいかについては、筆者は第三者に添削してもらうことの重要性を説いています。
第三者に見てもらうことが良いのは当然で、それはおよそどの参考書にも書かれていますが、本書では「どんな人に添削を頼めばよいか」など、より具体的な注意点についても述べられています。
小論文が「勉強しづらい」「他の科目より優先度を下げてしまう」「軽視されがち」に繋がっている要素を分解し、その一つ一つにどう向き合うかが載せられています。
また、第三者の添削を受けたその後、リライト(書き直し)の重要性も強調しています。
受けた添削に関して更なるリアクションをどうとればよいかについても述べられているのが特徴的でした。
「〜〜〜〜〜、とアドバイスを受けたとします。これでは、何をどうしたらよいか分からないですよね。だからこう質問しましょう」
といった具合にです。
「周りの受験生の答案が最も役に立つ」という指摘にもうなづけます。
難しい専門用語を用いた模範解答は、生徒自身の解答からかけ離れていることも多く、生徒たちが「こんなの書けないでしょ」と感じることもあります。
赤本の模範解答を見てそう思った方も多いのではないでしょうか。
受験は他の受験生との勝負です。ライバルたちより優れた小論文を書けばいいのです。
身近な答案を参考にして、まず一歩の成長を大切に積み上げていきたいものです。(もちろん、見せてくれた友達には自分の答案も見せてあげましょうね)
第4章ではさらに「本番で困らないためのネタの集め方」として、志望学部ごとにおすすめの参考図書を紹介しています。
また、集めたネタを効果的に活用するための方法論についても述べられています。
志望学部や分野に応じて、このように役立つ参考図書を挙げていますが、その上で「実際の大学入試では、学部・学科の分野をテーマとして小論文問題が出題されるとは限りません」としています。
であれば、どうしたらよいか。
答えは本書に載せられているので、気になる人はぜひチェックしましょう。
第4章の最後には、続けて、今すぐできる文章上達法や過去問の活用法にも触れられています。
この文章上達法以外にも、この第4章に書かれていることはすぐに実際の勉強に反映していけるので、即効性の高い内容になっていると言えるでしょう。
素朴だけどクリティカルな質問に答える第5章
そして締めくくりの第5章では、「今さら聞けない小論文の質問集」とまとめられています。
本書でこれまでに触れてこられなかった細かな疑問点について、筆者が答えを示しています。
「だ・である体で書かないといけないの?」「書く順番は 『起承転結』と 『序論本論結論』のどちらがいいの?」 など素朴な疑問に答えています。
今さら聞けない、ということで、他の参考書では冒頭部に来るようなこれらの質問についての答えが述べられています。
構成上の工夫であるかもしれませんが、小論文のことを全く知らない、やったことがない読者は第5章から読むことをおすすめします。
また、第5章ではこのようなベーシックな問いかけ以外に「大学入試の小論文には採点基準がありますか」というものや、「学校の先生に採点・添削・講評してもらえれば十分ですか」という、クリティカルな質問に対して、かなり踏み込んで答えてくれています。
実際の入試での採点基準の扱いは、講師によって様々な見解があります。
本書における意見は、かなり詳細に立ち入っているので、一読の価値ありです。
『採点者の心をつかむ 合格する小論文』の注意すべき点
このように良いことづくめの本書ですが、もちろん注意すべき点もあります。
世の中には多様な参考書があります。それぞれ一長一短ありますから、長所の部分をうまく抽出して、短所は他でカバーしていきたいところです。
では、その注意点1点目。
これは、他の参考書との比較になりますが、小論文で求められるであろう論理展開の力についての言及が少ないなと感じました。
受験科目としての小論文では、大学側が「論理性を見る」「論理的思考能力を測る」と、出題意図として明言されていることが少なくありません。(明言されていなくとも、その辺りの観点も確かに見られているはずです)
難しいテーマではありますが「小論文で求められる論理的思考力とは何か」について、深く突っ込んでいる参考書もあるなかで、本書はそのような点については少し影を潜めていたように思われます。
また、第5章でふれているような基礎知識を備えていない生徒もいるので、この参考書は小論文を何回か書いて、つまづいている生徒たちが読むとより効果的かと思います。
他にもやさしい参考書はあるので、手始めにやるにはもっと大枠をつかむための参考書を読んでもいいかもしれません。
『採点者の心をつかむ 合格する小論文』 の序盤だけを読んで、具体性と体験談に比重をかけすぎてしまう生徒が多くなるとそれは危険です。
限られた文字制限の中で、無駄に文字数を稼ぐ行為は採点者の心をつかみ損ねるので、ここは要注意です。
まとめ
『採点者の心をつかむ 合格する小論文』についてまとめると次のようになります。
勉強法についての具体性や即効性は先ほど述べた通りです。
読んだその日から使える・意識できることが豊富に書かれています。
また、体験談の活かし方については、背中を後押ししてくれる部分が多いです。
「採点者の心をつかむ」というフレーズを用いていることもあり、具体性と体験談を盛り込むことで、受験者本人にしか書けない答案となり、採点者の心をつかめる可能性は高まります。
採点者のイメージを想起させる分かりやすい体験談は小論文を書く上で、大きな武器になることは間違いないです。
解答時間がスタートしてからも、ペンがついつい止まってしまう方は、課題文に合う体験談を加えて、指定された分量(文字数)を書くことをおすすめします。
考えることも重要ですが、「いい構成、解決案が浮かんでいたのに試験時間内に書き終わらなかった」とならないためにも、実際に書いて訓練を重ねることは非常に重要です。
そして、書いたら必ず添削をしてもらうこと。
これは筆者も強く述べています。第三者に構成や論理力を指摘してもらい、小論文全体のバランスを整えていくのが良いです。
他で補っていきたい注意点としては、先ほど述べましたように論理展開に関する記述が少ないことが挙げられます。
また、体験談に比重を置きすぎている部分もあるので、そこは気をつけたほうがよいでしょう。
説得力を補強する手段として、自身の体験談以外の武器も持っておきたいものです。
ともあれ、得るものが多い参考書であるのは間違いないです。
最後になりますが、入試小論文のハウツー本という括りの中で、筆者が大学受験以降のところも見越して愛のある視点を持っていることが本書の・著者の非常に良い点であるなとも感じました。
大学入試を突破するための小論文の対策本でありながら、「小論文とは他者を理解するための問題意識の共有を図るコミュニケーションツール」と説明しています。
参考書の中では、良い小論文を書くための技術とは別に、随所で生徒たちに大学生、社会人になった後でも求められる小論文の力を力説しています。
これは、大学入試という枠だけなく、読者の人生という大きな枠で考えているのだな、と愛を感じる一冊でした。
小論文で培う力は、大学生や大人になっても役立ちます。
大学の卒業論文、会社でのプレゼンなど他者に意見を述べる、伝える機会は数多にあります。
生徒のみなさんは小論文を大学受験だけの科目と思わず、「今後の人生にも使える能力を伸ばしているんだ」と感じてほしいですね。